おうちしごと日報

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「アデン、アラビア/名誉の戦場」

断続的に読んでおります。池澤編・世界文学全集。

アデン、アラビア/名誉の戦場 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-10)

ジャン ルオー / 河出書房新社


30/100

↑の作者名はちょっと紛らわしいですね…
「アデン、アラビア」の作者はニザン、「名誉の戦場」がルオーです。

さて今回、池澤編世界文学全集10冊目にして初めて
ものすごい読みにくい文章にあたりました。
背景についての知識がある程度ないと厳しいものがありますね。
ニザンがアデンに向けて出発したのは1926年だそうです。

ワタクシ、恥ずかしながらニザンという名前にも初めて接したのですが、
この書き出し
「僕は二十歳だった。それが人生でもっとも美しいときだなんて誰にも言わせない。」
ってのは何故だか知っていましたよ。
この有名な書き出しの文章から受ける青臭い反抗心とか、
疾走感とか、頭でっかちな正義感の印象とともに。

10年くらい前かなー、一時「自分探しの旅」とかいう言葉が流行らなかったっけ?

もちろん自分というものが異国の道端に落ちていたり、田舎の商店で売っていたりするはずもなく、
それは「いつもと違う環境に身を置くことで、ちょっと客観的に自分を見つめなおす」という程度の意味でしかないわけですが、
ニザンの場合、アデンへの旅は「自分から逃げ出す旅」なのですね。
自分を形作ってきたパリ、あるいは知識階級、あるいは植民地主義、その他もろもろの社会の不正義から逃げ出す旅。

しかも逃げながら、それらに対してとても怒っているのです。

あまりに腹を立てながら旅をするものだから、
目に映るものすべてに社会の不正義を見てしまう。
美しい海や砂漠といった風景にも、アラビアの異国情緒などにも見向きもせず、
古の港町アデン(いまはイエメンにある)の中にも、自分の逃げてきたはずのヨーロッパ社会を見てしまう。

なので感傷的な旅行記などとは一線を画しているのです。

でもなんだろう、こういう旅行記、最近読まなかったかなぁ、、と思いながら読んでいたら、解説にありました。
レヴィ=ストロースの「悲しき熱帯」でしたよ。
レヴィ=ストロースもこの「アデン、アラビア」に影響を受けたんですって。
なるほどー、そうかも!


一方、もう一つの「名誉の戦場」ですが、
打って変わってこちらはとても読みやすい、流麗な文章。
しかしどちらもそうなのですが、
どうしてこうフランス文学はレトリックを駆使するのでしょうねぇ。
バカは読むなってことでしょうかねぇ(悲)
訳注ホントにありがとう(涙)

「名誉の戦場」は家族の物語です。
どこにでもいるような、平凡で幸せな家族。
一見、滑稽にしか見えないおじいさんの頑固さとか、
おばさんの生真面目な宗教心とか。

その裏に過去の悲劇があることを知るにつれ、
切なく愛おしい気持ちになっていきます。

この家族に潜む過去の悲劇とは第一次世界大戦なのだけれども
きっとどの家族にも、こういう物語はあるのでしょう。
平凡さを描いたからこそ、普遍的に思えるのでしょう。

ジョゼフやエミールの最期ではちょっと泣きました。
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by yurinippo | 2010-05-31 17:29 | book